エマージングウイルス

自然破壊が招いた、エーマジングウイルス感染症とは何か?

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2004/03/22

3.エマージング・ウイルス感染症

〜自然破壊から生まれた怪物〜

エマージング・ウイルス感染症

人類最大のウイルス性疾患、天然痘が根絶したと WHO(世界保健機関)が宣言したのが1980年だった。この宣言で私たちはウイルス性感染症の多くは克服されるものと思っていた。

ところが皮肉なことに、このWHOの宣言後、間もなく新たなウイルス性感染症が次々と発症し、世界を震撼させた。新しい感染症に挑戦する時代を私たちは迎えざるを得なくなったのだ。

これら感染症を英語で「出現する」という意味をとってエマージング・ウイルス(emerging virus)感染症といっている。

多少余談になるのだが、数多くの民話のなかに、妖怪がでてくる。あの深い森、あの山の奥には、私たち人間の理解を超えた不思議な現象や不気味な物体がおり、想像上の天狗、一つ目小僧、河童など化け物、すなわち妖怪が住んでおり、人は決して近づいてはならない、そんな民話がある。万一、言うことをきかず山の奥や森に入った者は二度と帰ってこないという。

このエマージング・ウイルス感染症は、私たち人間が足を踏み入れるべきでない所に入り込んで、そこに住む妖怪というウイルスが、自然の中でバランスをとって生きていたのを乱してしまった。そのことで、妖怪というウイルスが怒って、私たちの命を狙ったのではないかと思う。

エマージング疾患には

これら感染症には、ご存知のように肝炎ウイルスによる感染症である C型肝炎があり、C型肝炎ウイルスは今も大きな社会的な問題になっている。同じ様にHIV(ヒト免疫不全ウイルス"エイズ)もある。国内には入ってきていないが、エボラウイルスによるエボラ出血熱、昨年アメリカで大きな問題になった西ナイルウイルス感染症これは蚊(イエカ)が媒体となってヒトに感染する西ナイルウイルス。この誕生地はユーラシア大陸で、それがどうしてアメリカ大陸へ運ばれたか、ナゾだという。

そしてこの春、中国をはじめカナダに飛火をしたSARS(重症急性呼吸器症候群)がある。

ウイルスは地球上で最も小さい生物で、100ナノメートル(1ナノメートルは1ミリの100万分の1)その形は球形のものが多く、その中心部に遺伝子があり、その周囲をタンパク質の殻がおおっただけの簡単な構造である。

この遺伝子は、DNA(デオキシリボ核酸)かRNA(リボ核酸)のどちらかである。SARSウイルスは、コロナウイルスに属し80〜100ナノメートルでRNA型ウイルスである。コロナウイルス4型と呼ばれている。

これらウイルスは、増殖に必要なタンパク質の合成や代謝など、生物として不可欠な機能を自ら持っていない。感染した細胞に備わった機能を活用して、自分の持つ遺伝情報を発現させ、遺伝子を複製し、子孫を盛んに残す。とにかく、細胞に寄生して生きるものである。したがってその奇生(宿主)した細胞と共生することによって、太古から今日まで生きつづけてきたのである。

自然破壊が大きな誘因

エイズやSARSなどエマージング・ウイルス感染症の特徴は、自然界でこれらウイルスを体内に持って共存している野生動物との接触である。すなわちこれらウイルスのほとんどが野生動物が自然宿主で、バランスをとっていたのが、私たち人間が、これら野生動物の世界に入り込んで感染を受けたのだ。

20世紀に入り、とくにその後半からの人口増加とともに、産業の利益第一主義から森林を破壊し、その地域から追われた野生動物から感染したのだ。森林が伐採され、工業化社会でダムが建設されたり、高速道路ができ上り、さらに石油資源を追って、その自然宿主であった野生動物たちが住みかを追われ、そのウイルスたちがヒトの前に出現したのである。資料によるとこの30年で20種類以上のエマージング・ウイルスが出現したという。

1976年、内臓の細胞を食いつくし、鼻や消化器など全身からの出血で死亡するエボラ出血熱が、アフリカのスーダンやザイール(現コンゴ)で発症した。アフリカ奥地に住む野生動物がウイルスの宿主であることは間違いないという。

このほか、実験動物用に輸入したミドリザルから発症した、マールブルグ病があり、野生のコウモリから家畜のブタヘの感染、それがヒトに感染したニパウイルス病。ニワトリなどが持っていたウイルスに、ヒトが感染したトリインフルエンザなどがある。

そして今日、我が国で、若い層に感染が増えているものにHIV(エイズ)がある。先進国のなかで、とくに若い層でその感染率は日本がトップだという。徹底した性教育による予防対策の実施が必要である。

とにかくエイズの知識はあったとしても、発症を抑えこむ対症薬が開発されたことで甘くみているのではないか。コンドームの使用を未成年者にどう教育するか、切実な問題である。

HIVウイルスは、CD4陽性リンパ球など免疫担当細胞を破壊して長い期間の後、確実に若くして死亡するのである。多剤服用だが耐性で効果が下るなど最近問題となっている。

現在病的ウイルスは、3万種類以上発見され、そのうち100種が人体に疾患を及ぼしているという。前にも述べたようにエマージング・ウイルスは熱帯地域の森林に生息する野生のコウモリやネズミなどを自然宿主にしていると考えられている。

この冬 SARSが心配

八月の中頃、昭和大学の病院にいったが、入口にSARSに対する受診注意の掲示があった。必ず電話をかけてその指示に従って、病院外来には来ず、救急センターヘきてほしいとあった。そして必ずマスクをかけて来診してほしいとも書いてあった。

一般の医院や病院では、おかしいと思ったら保健所に相談、その指示に従ってほしいとある。

マスクは飛沫対策として意味があるが、ウイルスを完全に防ぐためには、医療用の高性能マスクが必要である。しかし実際には、一般には手に入りにくい。それに長時間の使用で息苦しくなる。普通のマスクに数枚ガーゼを重ねて使用するしかない。

可能性例では、陰圧室に入院となるが、感染法に基づく陰圧室を備えている病床数が全国で517床である。このSARSが、この冬、再燃するのではないかと心配されている。

このSARSウイルスの自然宿主の野生動物は分っていない。中国広東省の市場において食用として販売されているハクビシンとタヌキからSARSウイルスに似たものが分離されたというが、WHOは否定している。しかしこのSARSの原因となるコロナウイルスの全ゲノムが米国の疾病対策センター(CDC)によって解明され、一日も早いワクチン開発が待たれている。

しかし、ここで大事なことは、私たちには、これらウイルスに対抗する免疫機能が備わっていることだ。日頃の生活上の諸注意で、この免疫能力を下げないことが、エマージング・ウイルスに対しても重要なことである。

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