視床下部と脳下垂体

脳の働きを、視床下部と脳下垂体の役割から検証する。

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2006/04/07

心と生命(7)

〜脳を見る(3)〜

前号から引き続き脳を見てみよう。
脳を見れば見るほど、私たちは生きているのではなく、この大自然から生かされていることを強く心に感じる。地球ができ、長い長い生物の進化の中で、私たちの人間そのもの、この脳を見ていると、神秘に満ち、緻密に計算された大自然の創造物であることに改めて驚かされる。
〈中脳〉は、橋の上部にあり、歩行や姿勢の制御や眼の瞳孔の収縮する運動の調節を行っている。瞳孔は目に入る光の微妙な調整をしている。
さらに、この中脳から出た神経が、人間の創造性と深くかかわっている。詳しくは、中脳にある青斑核や縫線核という神経突起からである。
すなわち、この連載(第4回)で述べた神経伝達物質の一つであるセロトニンやノルアドレナリンを発揮する神経があるのだ。
ノルアドレナリン神経は、青斑核に始まり、大脳辺縁系をまわり、大脳新皮質、運動をつかさどる小脳にものびている。
セロトニン神経は、縫線核に始まる。セロトニン神経もノルアドレナリン神経も同じように脳全体に分布している。
セロトニンは、ご存知のように感情をコントロールする扁桃核、食欲や性欲や睡眠にかかわる視床下部、そして高度な脳機能を持つ大脳皮質に集中している。セロトニンが不足すると、これらの部分が十分に活動しなくなり、感情が大きく落ち込む様になる(うつ状態)。

視床下部〉---は、約5gの親指の先ほどの小さな脳であるが、人間の脳の中心にあって、保護調節をはじめ、食欲、性欲などの中枢でもある。
この視床下部は、前群、中群、後群に分かれており、体内の恒常性を自動調節、自律神経の中枢があり、前群が抑圧性の副交感神経を担い、中群が自律神経の行動性の交感神経の中枢を担い、後群が体温調節を担う。
とにかく、生き抜くために重要な欲望の情動も上位にある大脳に伝えて、これら欲を意志にかえて行動発揮の機能を果している。
精神分析の権威フロイト(1856〜1939年、オーストリアの精神科医師、精神分析の創始者)のリビドー説(性欲衝動説)とこの視床下部脳の働きは一致することがあると専門家は述べている。
フロイトは、性の概念を重要視し、私たちの日頃の欲求行動は性と深い関係にあるという。さらに、犯罪や、宗教心理、文学などにもリビドー説を述べている。
詳しくは、別の項で述べるが、私たちは日頃、自分の欲求が全て満たされるわけではない。むしろ欲求を断念することのほうが多い。
このとき、この不適応が、欲求不満となり、自分自身の心のなかに防衛反応として、無意識の世界に抑圧したり、逃避、退行、代償、昇華などの行動に出るという。
攻撃本能が自分に向かったときが自殺であるという。
フロイトのリビドー説は、すべてを性欲で説明しようとしすぎるという声もあるが、性欲に代表される生きる欲が、人間存在の根底にあるといえるのではないか。今日、精神分析は、この"フロイト的"を基本としている。

脳下垂体〉---視床下部は、その下部に大豆大の脳下垂体を持っている。
ヒトの場合、脳下垂体は、前葉、後葉に分かれている。
脳下垂体の後葉は、上部にある視床下部の一部が延びたもので、進化の過程で、水中から陸上に進出し、体内の水分調節を必要とするために発達した脳の一部であるという。
前葉は、鼻とノドがつながる後鼻咽喉部にあったホルモン分泌器官が、成長とともに脳下垂体後葉に結合した脳であるという。
脳下垂体前葉は、全身のホルモン系を支配する脳である。ここで重要なことは、脳下垂体前葉ホルモンは、全て上位にある視床下部からの命令によって分泌されていることだ。
分泌されるホルモンは、全身の体調、体内の恒常性などを保つ働きをしており、成長ホルモン、性腺刺激ホルモンなど10種類程度ある。
ここでホルモン分泌の一つの例を参考のために述べてみると、脳にある視床下部から脳下垂体という部分を刺激して性腺刺激ホルモンを分泌、この性腺刺激ホルモンが血流によって卵巣に到達、そうすると卵巣からエストロゲンという卵胞ホルモンが分泌される。そして二つある卵巣のどちらかから卵母細胞の成熟がはじまり、卵胞というカプセルのようなものに成熟する。その中に入っている卵母細胞が、卵として排卵(放出)される。そしてこの卵が精子と出合って受精卵が誕生し、子宮に着床すると妊娠することになる。

ホルモンとは内分泌腺から直接血管の中に微量に分泌され、血流を介して遠く離れた特定の器官や細胞(標的細胞)に至り、その働きを調節する生理活性物質である。
代表的なホルモンを示すと---

  1. 副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロンなど)
  2. 甲状腺ホルモン
  3. 性ホルモン(テストステロン(男性ホルモン)、エストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)
  4. 副甲状腺ホルモン
  5. 下垂体前葉ホルモン(成長ホルモン)
  6. 下垂体後葉ホルモン(抗利尿ホルモン)
  7. 膵ホルモン(インスリン、グルカゴン)
  8. 消化管ホルモン(セクレチン、ガストリン)
  9. 神経ホルモン(カテコールアミンなど)などがある。

1,2,3は下垂体前葉から分泌される各刺激ホルモンによって調節を受けており、下垂体ホルモンは、前に述べたように視床下部ホルモンによって分泌支配を受けている。

ホルモン分泌は単純ではない?

多くの場合、ホルモンの分泌は代謝効果やホルモン自体の血液中レベルによって、フィードバックを受ける形で調節されている。
例えば、血液中のカルシウムが減少すると副甲状腺ホルモンの分泌が高まり、骨からカルシウムを引き出す。カルシウムの血液中レベルが正常化すると、副甲状腺ホルモンの分泌は前の状態に戻るというようにだ。
同じように膵臓のβ細胞からインスリンが分泌されるが、食後、血液中のブドウ糖(血糖)が上昇した場合、膵臓のβ細胞は血糖の上昇をただちに認識し、インスリンの分泌を増加させて血糖値を正常化する。
逆に血糖が下がるとインスリン分泌を抑え、低血糖を防ぐ。
このように血糖レベルの変動によってインスリン分泌が高まったり、抑えられたり二方向に調節されている。
しかし、インスリン分泌の調節だけでは不十分で、血糖が下がった場合には、積極的に血糖を上げる作用を持ったグルカゴン、カテコールアミン、コルチゾール、成長ホルモンなど、神経系(神経伝達物質)のシグナルを受けて分泌され、血糖を正常に保つ。
このように、ホルモンと神経系の密接な相互作用によって、内部環境やいろいろな機能が精巧に微調節されている。
これらホルモンの多くは加齢にともなってその分泌が低下するものだが、コルチゾールやインスリンのように、生命維持に重要なホルモンは、加齢の影響が少ないといわれている。

小脳〉---脳幹と同じくらい大きな脳の部分である。身体運動の微調節を統轄する脳といえる。
小脳の発達について専門家は、両棲類、爬虫類へと進化する過程で、一時退化したようにみえるが、鳥類では劇的に発達進化があったという。
鳥類は哺乳類の小脳と比較して巨大であるという。扇形の羽根もあり、このことで「空を飛ぶ」という高度な運動が可能になったのだという。
小脳は、脊髄や脳幹とは質的に異った脳で、その構造は大脳にそっくりであり、構造や機能も大脳に似ている。
専門家は小脳について次のように述べている。
「小脳の最も重要な機能は、身体の各部の運動を協調させて平衡を保ち、運動が円滑にできるように微調整することだ。小脳は時計ともいわれるように、その正確さに特徴がある」
といい、この運動の調節は小脳だけでなく、その上位にある大脳とも深く関係しているという。
小脳の発達については、前に少し触れたが、魚類から両棲類、爬虫類と進化する過程で、私たちヒトなど哺乳類は、小脳よりも前に、大きな大脳の急激な発達をみて、全身に対する支配的な機能の統轄を上位の大脳に移していった。
私たち人間の場合、運動の最終的な統轄は大脳新皮質の運動野である。ところが、鳥類の場合は、大脳はそのほとんどが大脳基底核からできており、それによるコントロールと小脳の発達進化によって、鳥ははじめて空を飛べるのであるという。

大脳辺縁系と大脳基底核〉前に何回も述べたように、私たち人間の脳では、大脳新皮質の部分が大脳の外回りの表面を占拠したために、動物時代からあった大脳は、大脳内部に押しやられたり、周辺部に押しやられたりした。この内部に押しやられたのが、大脳基底核であり、周辺部に押しやれたのが大脳辺縁系である。
大脳基底核は、大脳新皮質(運動野のところ)と小脳、視床下部の中間にあって、運動と感情の動きである表情、態度を調節している。
この大脳核の失調は、パーキンソン病といって、中年以降に発症し、ゆっくり進行する変性疾患(神経疾患)をもたらす。中脳の黒質にみられる神経伝達物質の一つであるドーパミンが線条体というところで著しく減少し、無表情になったり、振戦(ふるえること)、筋肉のこわばりなどがあり、進行すると抑うつや認知症(痴呆)も併発する厄介な疾患である。また、ハンチントン舞踏病といって、常染色体優性遺伝(第4染色体短腕上に病的遺伝子がある)の異常から大脳基底核の失調を起こす。中年以降に発症し、大脳皮質の萎縮、生化学的には神経伝達物質のギャバなどの低下。顔をしかめたり、動作、歩行もおかしくなり、奇妙な踊るような歩行をし、慢性的に進行していく。医学書には、70歳までにはほぼ100%発症するとある。

大脳辺縁系は、視床下部と大脳新皮質(前頭連合野)の中間にあって、食欲、性欲の中枢である視床下部とともに、快感、怒り、恐怖といった情動をコントロールする脳である。
攻撃力を発揮する脳の部分(扁桃核)、記憶の脳である〈海馬〉、行動力を発揮する〈側坐核〉など、多くの重要な部分である。
この大脳辺縁系が異常に働くとき、心の病になるといわれている。
海馬は記憶の貯蔵庫、その外周りの側頭葉とともに記憶、学習の担い手だ。扁桃核は海馬とともに記憶することに深い関係があるという。側坐核は、大脳辺縁系の最上位にある小さい脳。人間の精神を創出する前頭連合野のすぐ後方にある関係上、前頭連合野とほかの多くの脳との働きを仲介する役目をしているという。この側坐核のすぐ上に、同じような小型の脳、中隔核があり、これは側坐核と連携して活動し、その付近は「中隔野」といわれ、さらに中隔野から扁桃核へかけての場所は、電気刺激によって、快感を生じると専門家は述べている。以上、脳について述べたが、脳の研究は日夜つづけられている。

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